名古屋高等裁判所 昭和27年(う)624号 判決
原判決挙示の各証拠当審に於て取調べた各証拠並本件訴訟記録に現われた各資料によると被告人は警察の取調以来一貫して本件放火の事実を否認すると共に他に被告人の犯行を直接認め得べき証拠のないことは所論の通りである。
而して犯罪事実を認定するには証拠に依らなければならないことは勿論であるけれどもそれは直接証拠丈により裏付けられなければならないものではなく、間接事実を通じて間接証拠により裏付けられても差支えはないのである。即ち犯罪行為そのものを直接証明する証拠がない場合でも犯行の情況、犯人の動機、環境、犯行前後の行動等から綜合して犯罪事実を推測し得る場合にはそれ等間接事実が証拠に依り認められるならば犯罪事実は証拠に依り認定されたと謂うことができる。
(中略)
二、同上(7)について
本件放火の方法について原判決は被告人方風呂場焚口横に積み重ねてあつた木炭四俵に火を放てば相当時間経過後右木炭の加熱により附近の建具等に燃え移り同家屋を焼燬するに至るべきことを認識しながら右木炭に点火して放火しと判示したこと所論の通りである。
而して判決に判示することを要する罪となるべき事実とは犯罪の特別構成要件たる事実を他の事実と区別し特定し得る程度に具体的に示せば足る。従つて之を具体的に示すことは犯罪の日時、場所方法等を必要の最少限度に於て示すことを要するもそれ以上詳細に捗り判示する要はないのである。本件に於て前記判決の判示を観るに被告人の本件犯行の動機、犯罪の日時、目的場所方法等は何れも具体的に判示されていること明かである。只点火の方法につき点火してとある丈で如何なる方法で点火したのかその詳細なる判示のないこと所論の通りである。放火の様な重大犯罪に於ては可及的に詳細に判示するを妥当とするけれども本件の場合のようにその方法の詳細が判らない場合には点火して放火しと判示するも必要の最少限度を充たしているものと謂うべく放火罪の判示として欠くるところはないから所論は採用しない。